ブックタイトル鉱山2020年2月号

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概要

鉱山2020年2月号

が見られる。そのまま長時間蒸着を続けると,その一部が膜ではなく繊維状の組織として成長を始め,結果としてナノファイバーが表面全体を覆った試料となる。電極に用いる膜厚(70nm)で蒸着させたSiOの表面と過剰にSiOが供給されて形成したナノファイバーで覆われた表面を図9に示す。ナノファイバーは基板との密着性が無いため,薄膜のSiOと同様のセルを作成しても,電子の移動が確保されず電極として機能しない。今回の電極では簡易にナノレベルのSiO膜が作成できるため蒸着法を用いたが,その機能発現にはナノレベルのSiO膜が必要なのであり,蒸着法で作製しなければいけない理由は無い。蒸着法は大量生産の点でも困難が伴うため,他の成膜法で作成したSiO膜についても実証を行っていく予定である。今回開発した電極はSiO層にカーボンブラックを積層させた構造であるが,カーボンブラック層については均一性を重視して作製したため数μmの厚みがある。SiOは導電性基板上に成膜しているため,導電助剤であるカーボンブラックが存在しなくても,電極としての抵抗は上がり容量も減少するが,電極としては機能する。電流密度を導電助剤層ありの1/2(100mA g -1)で充放電試験を行うと容量が減少し900mAh g -1程度でサイクルを行うことが測定されている。容量が十分に発揮できていないため今後に性能改善の余地があるが,現時点での体積当たりの容量密度でも黒鉛の7倍に達している。すなわち,今回開発した電極を用いると,既存の黒鉛負極に比べ負極の体積が1/7かそれ以下に減少させることが可能となるため,小型の高エネルギー密度化したリチウムイオン2次電池として提供できることが実証された。リチウムイオン2次電池は多様な技術の集合体であり,それぞれの開発思考には大きな隔たりがある。ただし,それらの技術は最終的なユーザーの希望に集約されなければ,個々の分野で評価が高くても淘汰される運命となる。公的研究機関では現場ニーズに触れる機会が少なく,成果が必ずしもユーザーが要求する条件に合致していない場合もあるので,産業界の方々から広くご助言いただける様にお願いしたい。参考文献[1]富士経済プレスリリース2020年1月31日[2] NEDO二次電池技術開発ロードマップ2013[3] T. Ohzuku, A. Ueda, and N. Yamamoto, J.Electrochem. Soc., 142(1995)1431[4] S.Goriparti, E.Miele, F.D.Angelis,E.D.Fabrizio, R.P.Zaccaria andC.Capiglia, J.Power Sources 257(2014)421[5] S.Fang, N.Li, T.Zheng, Y.Fu, X.Song,T.Zhang, S.Li, B.Wang, X.Zhang and G.Liu,Polymers 10(2018)610[6]向井孝志,池内勇太,山下直人,坂本太地,機能材料38(11)(2018)19[7] W.Liu, Z.Guo, W.Young, D.Shieh, H.Wu,M.Yang and N.Wu, J.Power Sources 140(2005)139[8] H.Takezawa, K.Iwamoto, S.Ito andH.Yoshizawa, J.Power Sources 244(2013)149[9] T.P.Nguyen and S.Lefrant, Solid StateCommunications 57(4)(1986)235[10] A.Hirata, S.Kohara, T.Asada, M.Arao,C.Yogi, H.Imai, Y.Tan, T.Fujita andM.Chen, Nature CommunicationsDOI:10.1038/ncomms11591(2016)[11] M.Mamiya, H.Takei, M.Kikuchi andC.Uyeda, J.Crys.Growth 229(2001)457[12] Maxellニュースリリース2015年12月10日[13] H.Yamamura, K.Nobuhara, S.Nakanishi,H.Iba and S.Okada, J.Ceramic Society ofJapan 199[11](2011)855鉱山第783号2020年2・3月-25-