ブックタイトル鉱山2020年2月号

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概要

鉱山2020年2月号

(a)(b)Charge Discharge1 stCharge2 ndDischarge10 th100 th500 thCapacity / mAh g -1Carbon (372 mAh g -1 )Cycle numbervs Li + ,1MLiPF 6 in EC:DMC=1:1, 0.1C, @ 25?C図8積層膜構造を持つSiO電極の電気化学特性(a)充放電曲線(b)サイクル特性ていることがわかる。この部分は容量とその後のサイクルでは見られないことから,安定相であるLi 4 SiO 4の生成でLiが消費されたことに対応し,初期充電過程のみに生じる不可逆容量として観察される。その後は電位が下がるにつれて容量を増していき0V付近では4000mAh g -1程度まで達した。この容量は反応式で示されているLi 4.4 Siを生成するのに必要となるLiより大きい。前述の通り,電極でのLiの挿入・脱離反応はその表面にSEIが形成されなければならない。SEIの主成分はLi 2 O 2などのLiの化合物であるため,反応式で示された以上のLiが消費されている。なお,SEIは初期充電のみで完成される訳ではなく,その後の充放電反応で分解・再構成が繰り返されて安定層となる。そのことは充放電容量の差を示す指標であるクーロン効率で判別できる。すなわち,クーロン効率が100%となった時にはSEIが安定層として出来上がったと見なすことができる。この電極での充放電曲線においては,サイクル数が増すにつれてクーロン効率も100%に近づいていく様子が観察されている。すなわち,SEIは形成と破壊を繰り返しながら安定化していくことがわかる。今回の電極では導電助剤層としてカーボンブラックを用いている。カーボンブラックは粒径が数十nmのナノ粒子で構成され,黒鉛のような層状構造を有していない。同じ炭素であっても構造内にLiを取り込む場所が提供されないため,負極としての機能性は大きく異なる。もし黒鉛と同様の機能を有していると仮定すると,負極充電時に電位が0.1V以下で容量の急激増加が見られなければならない。今回の測定結果では2サイクル目以降の充電曲線で0.1Vに達する前にフル充電の80%近くの容量に達しており,その後も充放電曲線に顕著な曲率の変化等が見られないことから,カーボンブラックが黒鉛の様には機能していないことは明らかである。500サイクルまでの容量変化を図8(b)に示す。1サイクル目の充電容量はLi 4 SiO 4の生成でLiを使用してしまうため,5000mAh g -1を超える大きな値を示している。他方それ以外は高い可逆性を持って充放電が行われ,放電容量は1サイクル目が2188.8mAh g -1で500サイクル後でも2057.8mAh g -1を示し,その容量維持率は94.0%に達する。500サイクルでの充電容量は2065.0mAh g -1で,このサイクル時のクーロン効率は99.7%となる。ケイ素系負極で問題となるサイクル劣化は,この積層膜電極では問題にならない。今回の電極では,活物質であるSiOを薄膜で作製し,ケイ素系負極でサイクル特性を向上させる際に求められるナノ構造を準備した。活物質はSiOであっても実際の充放電反応はケイ素鉱山第783号2020年2・3月-23-