ブックタイトル鉱山2020年2月号

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概要

鉱山2020年2月号

SiOの特徴を利用して形成される蒸着膜は,数十nmの膜厚になることが知られている。ナノスケールの膜は同サイズの粒子で問題となる凝集の問題が生じず,非常に簡便に取り扱うことができる。成膜の製造には既存技術として長年のノウハウの蓄積があり,実用例が見つけやすいなど,電極として製造するのに有利な条件を持ち合わせている。そこで,SiOの蒸着膜を電極活物質として利用する方法を考案した。一般的な電極は電極活物質に導電助剤と結着剤を混合した構造をしているが,膜を活物質として用いる際には導電助剤との混合ができないため,導電助剤のみを後から塗工して積層させる構造を用いた。SiO膜は導電性を有する金属基板上に蒸着させて成膜しており,積層させた導電助剤層は基板縁の部分で基板との接触が保たれているため,上面の導電助剤層と基板側底面の双方から導電性が担保される設計となっている。活物質であるSiOには導電性がほとんどないが,存在する膜厚が数十nmであるため充放電反応で必要となる電子の移動距離は極めて短く,通常の粒子を混合させて作製する電極と比べても不利に働くことはない。この発想で開発した電極を用いて各種の特性評価を行った。・SiO積層膜電極の作製SiOの蒸着膜生成には温度勾配が制御しやすい環状炉を用いた。使用した環状炉は発熱体にカンタルを用いているため,蒸着源が置かれる設定温度を1000?Cにして蒸着を行った。蒸着には30時間をかけたが,発熱体を変えて高温に設定すればより短時間でも可能となる。シリコニット炉を用いて1200?Cまで加熱温度を上げた場合は30分でも成膜することを確認している。蒸着のターゲットとなる基板にはステンレスを用いた。銅基板を用いることも可能だが,市販の銅板をそのまま用いると蒸着プロセス中に表面の酸化膜が還元され重量減が生じ,SiOの蒸着量を定量できなくなる。そのため銅基板を用いるためには,事前に還元処理を施す必要がある。今回の実験は評価セルでのサイズに合わせ,直径15mmのステンレス基板をターゲットとして蒸着を行った。蒸着前後の写真を図5に示す。蒸着基板表面には光沢があり,色彩はステンレス基板本来の色に近く顕著な変化は感じられない。蒸着膜は比較的堅固で,手で触れる程度では剥離しない。蒸着表面をXRDで評価すると基板のステンレス以外の結晶相は観察されなかった。また,SEMによる表面の組成分析を行うと,一様にSiが分布していることが確認できた。SiOは非晶質で存在するため,ステンレス基板表面にSiOが蒸着したと見なすことができる。SiO膜を電極として機能させるために,導電助剤層を塗工により積層させた。導電助剤にはカーボンブラックを用いた。カーボンブラックは粒径50nm程度の微粒子からなり,これにカルボキシルメチルセルロース(CMC)を結着剤として加え,水に分散させた混合液を塗布・乾燥させることで成膜した。微粒子からなるカーボンブラックで層が形成されているため,この導電助剤層は密度が低く層中に適度な空隙が存在している。この積層膜が電極として機能するためには,電解液がSiO層まで浸透しなければならないが,このカーボンブラックの層はその浸透が可能な構造となっている。導電性を付与するだけが目的であれば,スパッタ法などでカーボン層を作製することも可能であるが,電解液が浸透可能な空隙が用意できないため,今回の積層膜としては適していない。(a)(b)図5蒸着用ステンレス基板写真(a)蒸着前(b)SiO蒸着済鉱山第783号2020年2・3月-21-