ブックタイトル鉱山2020年2月号

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概要

鉱山2020年2月号

Si充電Li 4.4 SiSEI (Solid ElectrolyteInterface)放電Si図4ケイ素負極の充放電反応モデル黒鉛にSiを混合したコンポジット電極が提案されている。[7]このコンポジット電極は黒鉛にSi数十%を混ぜて構成することで容量増を目指す電極で,一部は市場への供給が始まっている。黒鉛の2倍程度の容量を発揮することは可能だが,一定比以上のSiを混合してしまうとサイクル劣化の問題が顕著となってくるため,性能向上には限界が存在する。のLiイオンの移動にSEIが安定して表面に存在する必要がある。Si負極の場合は300%を超える体積変化が生じるため,通常は放電時に形成されたSEIが破壊され剥離してしまい,電極としての特性は急激に劣化する。更に,電極は活物質であるSiと導電助剤であるカーボンブラック混合体をバインダーで結合されて構造が保たれているため,体積変化がバインダーの保持能力を超えてしまうと活物質が剥離してしまう問題もある。充放電におけるサイクル劣化を解決する方法として,活物質であるSiをナノスケールまで微細化することが有効と言われている。しかしながら,微細化した活物質は凝集しやすく,電極作製で求められる導電助剤・結着剤との均一分散などで生じる問題を解決しなくてはならない。サイクル劣化を解決する試みとしては,バインダーを改善して電極の崩壊を抑える技術も研究されている。バインダーの種類としては主に有機系と無機系があり,有機系としてはポリアクリル酸を用いて1000mAh g -1を超える容量を数十サイクル後維持する電極が提案されている。[5]無機系ではアルカリ金属ケイ酸塩などを用いて200サイクル後でも1500mAh g -1以上を示す結果も報告されている。[6]ただ,容量維持率は200サイクルで70%以下となっているため,それぞれのバインダーでさらなる改善が試みられている。Siそのものを活物質として高容量を目指す方針もあるが,非常に大きな体積変化に対処する必要があり,実現は難しい。そのため,既存の・負極活物質としてのSiOについてSi系負極開発において,本研究ではSiの供給源として一酸化ケイ素(SiO)が利用できることに注目した。SiOはSiをそのまま活物質として利用するより体積変化が小さく電極崩壊のリスクを低下させることが期待できる。SiOはSiとOが1:1の組成を持つ非晶質の物質で,常温・常圧で安定に存在する。特徴として,蒸気圧が高く900?C以上の真空環境で揮発する。この特徴を用いることで蒸着膜が容易に形成されるため,以前から酸化被膜や絶縁被膜として利用されてきた。SiOの構造は結晶相が得られていないこともあり,多方面から解明が試みられてきたが未だ確定には至っていない。XAFSやXPSの測定からSiOを構成するSiにはSiからSi 4+まで全ての価数を持ったSiが存在しており,単純に組成から想定されるSi 2+やSiとSiO 2の混合物の場合のSiとSi 4+では説明がつかない。[8,9]また,近年の研究においては,実測と計算シミュレーションを用いてこれら価数の異なるSiから構成される不均一構造が提案されている。[10]この様に構造が未確定とされるSiOであるが,蒸着で得られる物質の組成は化学量論的で,単純な組成比で難解な構造というミスマッチな特徴が存在している。SiOは脱酸素雰囲気下では900?C以上でSiとSiO 2へ分解する不均化反応が生じる。この反応は非晶質中での固体内拡散でSiの結晶化が生じるため,加熱温度でSiの結晶粒径をナノスケールで制御が可能である。[11]この特性は負極開発にも応用され,現在Maxellから製品として提供されている。[12]-20-鉱山第783号2020年2・3月