ブックタイトル鉱山2020年2月号

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概要

鉱山2020年2月号

有機液体が用いられているため,火災等の事故を誘発するリスクがある。特に輸送機器での使用を想定して,そのリスクを取り除くために同様の特性を持つ無機材料の開発が進められており,電解質を無機固体に置き換えて組み立てた全固体電池に注目が集まっている。・電池開発に対する材料化学的アプローチリチウムイオン2次電池の性能向上には前述の通り多方面で技術の進歩が求められている。当研究機関においては,材料化学の視点から効率的かつ可逆的に電気エネルギーを得る化学反応を起こせる活物質を設計・開発してきた。リチウムイオン2次電池の活物質として利用するには,その材料内でリチウムイオンが挿入・脱離を繰り返しても構造が維持されることが求められる。そのため活物質を構成する元素には,それに伴う電荷の変化や体積変化が骨格構造にダメージを与えない,電子のやりとりでの酸化還元電位がエネルギーを取り出すのに十分な値を示す,などの特性を有する必要がある。正極においては代表的な活物質としてオリビン型構造のリン酸鉄リチウム,スピネル型構造のマンガンリチウム,層状岩塩型構造コバルト酸リチウムなどが挙げられる。しかしながら,正極活物質において容量向上を目的にリチウムを過剰に活物質内に取り込んでしまうと充放電時に骨格となる元素に過剰な価数変化が必要となり構造を維持できなくなる傾向がある。例えば,スピネル型のマンガンリチウムは化学式でLiMn 2 O 4と表記され,充放電でリチウム(Li)が脱離し再度取り込まれる反応を繰り返すことになるが,その際に構成するMnの半分がMn 3+ ? Mn 4+の価数変化を起こす。構成するMn全てでMn 3+ ? Mn 4+の価数変化が許容されれば充放電反応はLi 2 Mn 2 O 4 ? Mn 2 O 4となり,既存活物質の2倍のLiを利用できることになり,容量は2倍となる。しかしながら,構成するMn全てが価数変化を行うとこのスピネル構造を維持することができなくなり,電極活物質としての機能は消失する。一般に正極活物質にはこのような傾向があり,高容量化の材料開発は非常に困難である。そのため,反応における電位を向上させることでエネルギー密度を高める方針が取られている。スピネル型マンガンリチウムにおいては,Mnのサイトを高い電位が得られるNiに置換させた高電位正極活物質が提案されている。・負極開発について負極においても高性能化に向けての材料開発が進められている。NEDOが示している負極の技術マップを図2に示す。[2]現在製品として使用されている負極は主に黒鉛とチタン酸化物系で,これらの充放電モデルの模式図を図3に示す。黒鉛は炭素が作り出す6角形からなる層で構成されており,その層間で6角形の中心部にあたる位置にLiが取り込まれる。そのため,充放電反応を式で表現すると,Li + 6C ? LiC 6となり,その理論容量は372mAh g -1となる。層間へのLiの挿入・脱離であるため,可逆的な反応が起こりやすく2次電池用電極活物質として適している。市販に提供されている正極活物質の理論容量が150mAh g -1前後であるため,その理論容量は正極の2倍を超える値となる高容量であると言える。黒鉛は充放電反応において,容量が対Li金属で0.1V付近で大きく発揮される。そのため,正極と組み合わせた時に大きな電位差を生じ,高いエネルギー密度をもたらしている。しかしながら,その作動電位の低さのため充電時に負極への負荷がかかるとその電位が0V以下となりLiが黒鉛内に取り込まれず,Li金属として電極表面に析出する電析という現象を起こす。電析により生じたLi金属は電池の短絡や発熱などの安全性の問題を引き起こす要因となる。負極へ負荷がかかる環境には,低温や高電流での使用が考えられ,特に輸送機器などでの用途においては注意を払う必要がある。この電析のリスクを避けるため,作動電位の-18-鉱山第783号2020年2・3月