ブックタイトル鉱山2020年1月号

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概要

鉱山2020年1月号

2-1.信州大学ウェアラブルナノ材料部門木村睦教授「高分子機能材料の開発」木村先生は繊維学部に所属しておられ,また元々農学の出身で有機化学が専門なので,高分子機能材料を作ることを研究されています。その中に,逆浸透(RO)膜に代わる革新的な水処理技術の開発があります。細胞膜を模倣したアプローチかつ機械的特性を考慮してポリマーでの実現を目指しドライプロセスで直接合成するというもので,Paryleneを真空中で加熱してポリマー化すると水が通る膜ができ中空糸も製造できるとの事です。これに注目して研究している人は誰もおらずオンリーワンの研究のようです。最近はナノ被膜の研究や,Paryleneと金属有機構造体(MOF)の複合化などを行ってエタノールと水の分離を試みているとの事です。このParylene Coating Processを用いた中空糸膜は,アフリカ・タンザニアのフッ素汚染水を浄化し約2000名の住民に対して1日50Lの水を供給するプロジェクトに活用しています。タンザニアのアルーシャ地区などF濃度が4.5mg/Lを超えており(高いところでは44mg/L)問題となっています。このParyleneベースの中空糸膜による浄化装置ではF濃度を1.5mg/L以下にする事が出来たとの事です。その他,パックテストのような試験をコットンなどの天然繊維で出来ないかとか,pH試験紙のような簡単な仕組みでF濃度を検出できないか等に取り組んでおられます。その次はヒ素の検出(除去)にチャレンジしたいとの事でした。その他にGoogleと共同で導電性繊維と超小型電子部品でウェアラブルデバイス化した服を製造する「ジャガードプロジェクト」に参加しているそうです。木村先生は導電性高分子を金属レスで研究しているのですが,パイロットプラントは見学OKとの事です。とても興味深い研究で,非鉄金属とのコラボが可能ならより良い成果が出るような気がしました。2-2.信州大学低次元マテリアル部門杉本渉教授「次世代エネルギーマテリアルとしてのナノシートの可能性」この部門は,環境・エネルギー材料科学研究所とカーボン科学研究所が合わさって出来た部門で,カーボン,酸化物(非酸化物),光機能,キャパシタに関連した研究開発を行っています。杉本先生は,特に酸化ルテニウム(RuO 2)ナノシートを繊維や高分子シートに付与し,スーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)へ適用する研究に注力されています。スーパーキャパシタは2次電池材に比較して繰返し特性(劣化しない)と急速充電性(100~500倍の速さ)に優れていますが,蓄電できる容量が小さいという欠点があります。容量が小さいのは層の表面しか活用していないからであり,だからこそナノ化が重要と考えられます。杉本先生はRuO 2を低温熱処理する事で,20F/gから720F/gへと高エネルギー密度化に成功され,層状RuO 2ナノシートにしても330~390F/gを達成しています。更に欠点であった起電力が1.5V程度しかない問題も4Vの出力化に成功し,エネルギー密度は1000Wh/kgもクリアしているとの事です。近年は,NEDOの燃料電池触媒のプロジェクトにも参加し,100g程度使われる白金の使用量を1/10にしつつ燃料電池の寿命を2~3倍にすることを目指しているそうです。Ptナノ粒子を2~2.5nmよりも小さく出来ていないのは失活が早くなるからであり,だからこそナノシート化が有効であると考えておられます。赤外分光法を用いることによって,Pt触媒表面と二酸化炭素との間の表面(電気)化学反応プロセスを分子レベルで解明することに成功しています。因みにCu,Ni,Pdのナノシート化も可能で,石岡金属工業株式会社を通して1 kg/バッチで合成してテスト販売も可能との事です。鉱山第782号2020年1月-57-