ブックタイトル鉱山2020年1月号

ページ
43/80

このページは 鉱山2020年1月号 の電子ブックに掲載されている43ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

鉱山2020年1月号

は,対極でH 2発生させる必要性は小さい。O 2還元と組み合わせれば非常にシンプルな自立システムが構築できる。このような光電極技術を用いれば,将来的には外部電力無しで,NaClからNaClOを効率良く製造できる。この小型装置を使って,食品工場や食品売り場,医療機関,公共機関での殺菌を行ったり,衣料品加工工場での脱色などに利用できる。また,僻地(離島,砂漠地帯,発展途上国,紛争地帯,災害地域)の小型オンサイトの殺菌溶液製造や安全な飲料水を提供する浄水設備,非常用の飲料水装置などで実用化できる。さらに,WO 3 -BiVO 4複合光電極では,炭酸水素塩水溶液を用いた場合に水を酸化して特異的に過酸化水素が生成できることも見いだしている11-13,19)。電流-電圧特性も他の電解液に比較して炭酸水素塩中では飛躍的に向上できる非常にユニークな効果である。Al 2 O 3等の表面処理により向上し,現状では約80%に達している。表面処理は生成したH 2 O 2のO 2への逐次酸化を抑制していると考えられる。また,カソード側で水素製造では無く,O 2還元による過酸化水素製造を外部バイアス無しで行うこともポテンシャル差を考慮すると充分可能であり,実際に外部電力ゼロで両極からH 2 O 2製造反応が効率良く進行できることも確かめている12)。イオン交換膜が有っても無くてもこの濃度ではH 2 O 2が同レベルで蓄積できることが分かっている。この知見を延長すれば,光触媒シートや光触媒粉末でも同じ原理でH 2 O 2生成ができることも確認している。また,スピンオフ技術として,光を利用せずに,電力だけでH 2 O 2を水から製造できるコンパクトなシステムも開発できている24)。導電性ガラスに触媒としてBiVO 4やAl 2 O 3を担持したアノード電極を炭酸塩水溶液に入れて,2V以上の高い電圧をかけると,選択的にH 2 O 2が生成する事が分かった。担持した酸化物は光を吸収する半導体としての機能では無く,水からH 2 O 2を酸化的に生成する触媒として働いていることが明確に確認できた19)。また,我々は光電極を用いた低電圧での電解有機合成も検討している。フランのメトキシ化や芳香族アルコールの酸化などの様々な反応が可能である17,18,20)。この中でもシクロヘキサンからのKAオイル生成は非常にチャレンジングな反応であったが,選択性が非常に良いことをごく最近見いだしている20)。KAオイルとは,シクロヘキサノン+シクロヘキサノールの混合物であり,ナイロンなどの主要原料として世界での年間生産量は600万トン以上ある。現在,KAオイルは,高温・高圧下で多大なエネルギーを使用して製造されているが,選択性を上げる制御の難しい酸化反応であり,環境調和性の観点から革新的な新規プロセスの開発が強く求められている。飽和炭化水素であるシクロヘキサンのC-H結合は非常に強固であり,結合の切断や活性化には高温でエネルギーを投入したり,特殊な反応性の高い酸化剤を用いたりする必要がある。酸素を用いた酸化反応やラジカル中間体を経由する反応は様々な副反応が進行する可能性があり,選択性を向上させるのが難しいが,今回のWO 3光電極の常温常圧反応で得られた酸化生成物を分析するとCO 2生成は非常に僅かであり,KAオイルの生成物選択性は99%以上であった。想定した反応機構を元に流れた電流に対する生成物の見かけの利用効率を計算すると79%に達した。光電極システムによる有機合成反応の有効性を示す結果である。ここで紹介した分野は「Solar Chemicals」(今回の紹介は酸化的ソーラーケミカル)と呼ぶのが好ましいと思われ,Solar HydrogenやSolarFuelと同様に大きな分野に広がっていくと考えられる(図8)。この分野から,ニッチで小さくても良いので早期に実用化システムが開発されることを期待している。8.終わりに人工光合成の研究開発の時間軸に関しては,開発項目のハードルの高さと数などを考慮すると,粉末光触媒水分解は長期的,外部バイアス-34-鉱山第782号2020年1月