ブックタイトル鉱山2020年1月号

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概要

鉱山2020年1月号

があっても良い。特に,人工光合成分野では,酸化生成物の利用についてはあまり関心が無かった。酸素発生以外のアップヒルの酸化反応は単発的に論文が報告されていたが,その報告例は少なく,その意義は単に学術的な立場であった。筆者らは,太陽エネルギーで水素と様々な酸化剤などの有用化学品を製造できる新規光電気化学システムの可能性を検討してきた(図6)10-20)。半導体光電極としては,安価に製造できる多孔質酸化物半導体を中心に研究している。それらの研究を通じて,様々な酸化的な有用化学品製造の新たなシステム開発の実用的な重要性を認識し,このほぼ未開拓な分野の研究の経済合理性を意識した意義付けを行った21)。様々な化学薬品の製造には膨大な化石燃料のエネルギーが直接的または間接的に使用されており,その省エネルギー化やCO 2フリー化は非常に重要な課題である。もし,太陽光エネルギーを利用した光電気化学的な化学薬品製造プロセスが高効率・低電圧で実現できれば大きな省エネ効果と低コスト化が期待できるが,そのような検討例はほとんど無かった。水素を製造販売するだけで利益を上げるにはその時の市場価格よりも安く製造する必要があり,それだけで自立して経済性を確保することは非常に大変である。酸素の販売も可能ではあるが,酸素の市場価格は水素よりも大幅に安いので,そこで利益を上げることも難しい。もし,光子数や電子数当たりで水素よりも数十倍,酸素よりも数百倍付加価値のある有用な化成品を製造できればトータルシステムとして経済性が飛躍的に向上する可能性がある。そのような付加価値のある有用な化成品の例を図7に示す21)。この横軸は電子モル当たりのCO 2排出係数を示しており,つまり地球温暖化の指標である。この縦軸は電子モル当たりの価格を示しており,つまり経済合理性の指標である。H 2 O 2やHClOの場合,H 2やO 2 ,CO,MeOHよりもどちらの軸についても飛躍的に大きいことがわかる。つまり,光電気化学的に,H 2 O 2やHClOを製造できれば,H 2やO 2,有機物の製造よりも圧倒的に経済合理性があり,且つ地球温暖化にも貢献できると言える。この2つの化学品は製造量が特に膨大である。世界で,H 2 O 2やNaClO塩は450万トンと7000万トンが年間に製造されている。温暖化対策効果の指標である電子モル当たりのCO 2排出係数(kg-CO 2 /kmol-e -)は水素と酸素で,2.5および1.1に対して,過酸化水素と次亜塩素酸では90.1および15.5に達し,CO 2排出削減効果が水分解よりも非常に大きいことが分かる。その製造における世界の年間CO 2総排出量はそれぞれ2400万トンと2900万トンに達する。また経済合理性アノード光電極S 2 O 82-Ce 4+H 2 O 2 ClO -有用化学品Br + Cr 6+ごく小さな外部電力カソード電極H 2e - H 2 O 2BrO -有機物IO 4-各種原料有用化学品の利用法・排水処理・有機汚染物質の浄化・殺菌、消毒・漂白、洗浄H 2 O, O 2・選択的有機合成図6太陽エネルギーで水素と様々な酸化剤などの有用化学品を製造できる光電気化学システムとその応用例-32-鉱山第782号2020年1月