ブックタイトル鉱山2020年1月号

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概要

鉱山2020年1月号

平準化しても,往復効率が低いために蓄電池以上のコスト上乗せになる。次に,3のサンベルト地帯の太陽光発電を中心に,水電解水素製造と水素キャリアを組み合わせて,グローバルにエネルギーを遠い海外に販売する場合について考察する。近距離であれば電線やパイプライン輸送も可能であるが,日本向けも含めて長距離輸送(電線より化学輸送が有利な4000km以上)では各種水素キャリア経由が有利である。海外での販売を想定し,もしサンベルト地帯での太陽光発電の発電コストが3円/kWhの場合,水素製造コストはいくらになるであろうか。日本に上記のソーラー水素を輸送するグローバルサプライチェーンを構築できる可能性はあるのだろうか。いくつかの仮定を置けば,水素製造コストは計算できる。このコスト試算に関しては専門家に任せるのが良いという考えもあるが,ブラックボックスではなく,研究者が積み上げ内容まで認識することで,研究の方向性が明確化できるというメリットもある。研究意義を強く主張するならば,自分で試算するのが望ましい。類似の例として,計算化学や特殊な解析装置の利用は,昔は専門家任せだったが,今は研究者が自分で行っている。インプットが決まれば誰でも同じアウトプットが出るようになれば,専門家は要らないステージになる。米国DOEでは水素製造のプロジェクト応募において,H2A分析と呼ばれるコスト積み上げのエクセルファイル提出を求める場合がある。エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会報告書の強調ポイントである経済合理性とLCAの試算は今後更に重要になっていく。4.水素製造コスト目標および太陽光発電+水電解による水素製造のコスト試算水素製造のコストの試算の前に,水素基本戦略の30円/Nm 3,将来的に20円/Nm 3という目標値の妥当性について確認する。この数値は以前から漠然と目標のような雰囲気であったが,今回の水素基本戦略で初めて明確化された。国内の様々な鉄鋼・化学プラントからの副生水素の価格は30円/Nm 3前後とされている4)。化石資源改質からの目的生産水素では同レベルか,もう少し高価になる。また,石油のMJ当たりのエネルギー価格は2円/MJ前後と想定され5),20~30円/Nm 3 -H 2は1.6~2.4円/MJなので,石油代替エネルギーと考えればこれで等価になる。燃料電池車用の水素販売価格(1000円/kg)から燃費を考えて逆算しても,国内外の水素製造のプロジェクト目標を考慮してもやはり同レベルの価格になるのは必然である。需要側と供給側のどちらから試算しても,CO 2フリー水素が化石資源改質からの水素と競争するためには日本国内で(または輸入価格で)30円/Nm 3以下にする目標達成が将来像として必須と言える。海外の状況においても,為替変動はあるが,先進国ではエネルギー価値としてほぼ同じ議論であろう。水電解による水素製造のコスト試算は,電中研レポート6)の方法に準じて行う。このレポートでは大型PEM型電解装置(300~32000Nm 3 /h)を想定しているが,どのような形式でもほぼ同様である。まず標準モデルケースを想定し,プラント建設の減価償却費を含めて,償却期間,電力価格,稼働率,税金,人件費,補修費,金利などを変数として考えれば良い。このレポートはこれらの数値例がそれぞれ明記されており,非常に参考になる。大型の水電解プラント建設費はエネルギー基本計画の2020年目標値(5万円/kW)に近い。近年いくつかのカーボンフリー水素のコスト試算が公開されているが,基本的な手法は同じである。例えば,電力価格5円/kWh,稼働率90%の場合,水素製造コストは26.5円/Nm 3 -H 2程度であるが,8割以上が電力価格である。最もコスト変動に影響を与えるのは,電力価格と稼働率である。仮に中東の砂漠の3円/kWhの太陽光発電の電力で水電解を行った場合は,稼働率20%が太陽光利用の上限なので,23円/Nm 3 -H 2程度になる6)。稼働率が小さくなると,電力価格以外の誤差が大きくなるが,筆者らの独自の試算では少し高めの,23~29円/Nm 3 -H 2に-26-鉱山第782号2020年1月