ブックタイトル鉱山2020年1月号

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概要

鉱山2020年1月号

日本や欧州のFIT制度では高額の賦課金(日本は2兆円/年を超えている。)が既に国民負担されながらも大規模な反対運動が起きていないことを考えれば,税金投入や賦課金も含めた政策は経済合理性が全く無いとは言えない。経済合理性というのは不思議な言葉で,近々の直接投資としては赤字でも,将来の遠回りした投資が国民にとって有益(地球温暖化が緩和される,将来に自国企業が海外で活躍する,エネルギーセキュリティに資するなど)であればそれなりに合理的と思われる。国民の納得感(世論)が最も重要であると言える。一方で,経済合理性をもう少し狭義で考えれば,将来的で良いのでシステムとしての経済性はやはり担保しておきたい。サンベルト地域に既存技術の延長でシリコン太陽電池を敷き詰めてエネルギーを輸送すれば,世界のエネルギー問題と地球温暖化問題が解決できるかもしれない。太陽電池と水電解を組み合わせたPower-to-Gas技術で十分かも。そのような世論やマスコミの論調が強くなれば,もはや人工光合成の研究は不要と思われる日が来る可能性もあるので,その前に早く研究を進捗させて実証段階に入る必要がある。もちろん,天然光合成の真理の探究や基礎研究としての価値は揺らがないが,人工光合成による燃料製造としての意義は常に理論武装をブラッシュアップしながら説明責任を果たすこと,および本分野の多くの研究者が分野外の人にも分かりやすくその意義を情報発信することが重要である。海外の入札案件が“真の経済性(=税金投入無し)”を得るまで,時期は想像以上に早いかもしれないが,諦めずに一緒にゴールすることもできるはずである。地球温暖化や世界エネルギー問題の研究は,日本国内(ある国の国民や国内企業)の利益ではなく,世界規模での利益を考える段階にシフトする時期に来ているという風潮も考慮する必要がある。税金投入以外の太陽光発電の普及のボトルネックについて次章で示す。3.太陽光発電の導入限界変動する太陽光発電を系統接続するには,周波数変動を一定範囲にする必要があるが,接続量に限界があるため,九州や北海道では一部系統接続が制限されている。同様の問題は国や電力会社ごとの運用次第であるがどこでも起こりえる。アラブ諸国に大規模な太陽光発電が導入された場合,都市の規模が小さいので系統は不安定になりやすい。九州では人口1300万人に対して,8GWの太陽光発電で昼間の電力需要の8割に達し,系統接続制限が問題視されている。UAEとアブダビの人口は930万人と280万人であり,九州並の太陽光発電の導入規模は困難である。上述のUAEのギガソーラーはアブダビの東120kmの内陸スワイハン地区の砂漠に設置され,一見すると近くに電力大規模需要があるように見えない。需要と供給を一致させる対策が必要であり,その対策が無ければ折角の電力エネルギーを無駄に捨てることになる。対策としては,1アラブ諸国だけで無く世界各国に広く設置する,2積極的に別のエネルギーに変換貯蔵して電力平準化する,3海外にエネルギーを販売するなどが挙げられる。1に関して,日本でも太陽光発電を普及するために入札制度が始まったが,残念ながら入札金額はほぼFIT価格と同等になり低調であった。アラブ諸国の様な好条件で大規模に導入できる国や地域は未だ限定される。欧州のPower-to-Gasの電源は,スポット電力市場価格や風力が主力である。一方で将来的に,もし豪州や米国,南欧で真の経済性が担保できた場合,世界情勢は一変するだろう。2の電力の変換貯蔵と平準化方法としては,揚水発電や蓄電池,水電解装置などが考えられる。揚水発電ができる場所は非常に限定的である。蓄電池は最も安価な場合(仮に3万円/kWh-装置を想定。日本の2020年目標の半分)でも,10年寿命昼夜1サイクル運用では8円/kWh以上の上乗せになるので,3円/kWh以下の太陽光発電の電力を敢えて自国の夜間用に蓄電池で蓄積する必要性は乏しい。水電解装置+燃料電池のセットで電力鉱山第782号2020年1月-25-