ブックタイトル鉱山2020年1月号

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概要

鉱山2020年1月号

も説明することが重要である。人工光合成による水素製造は,常に「太陽光発電+水電解」と比較される。太陽光発電の発電コストが著しく低下している状況において,この定量的な比較は非常に重要である。何の軸で比較すべきかの議論はあるが,最も分かりやすいのは経済合理性の指標として,例えば水素製造コストであろう。水素基本戦略では,2030年頃の国内のプラント引渡しコストで30円/Nm 3,将来的に20円/Nm 3という目標値が明記された。第五次エネルギー基本計画においては,CO 2フリーの水素源として、水電解と再生可能エネルギー電力の組み合わせのPower-to-Gasが特に有望視されている。本解説では,人工光合成の経済合理性を様々な視点で説明する。特に強く示したいことは人工光合成と太陽光発電との協調である。エネルギー問題・地球温暖化という超難問の克服には,単一技術では困難であり,総合力で解決すべきと考えている。太陽光発電は近年安価になっているが,未だ大きな欠点がある。両者が競争するのではなく,協調することで新しい展開ができると考えている。2.ギガソーラー発電の入札と市場原理の衝撃エネルギーの議論において日本と世界では状況が大きく異なるが,主に海外中心の議論を行う。太陽光発電の価格は年々確実に値下がりしている。1976年時点で約$100/Wpのモジュール価格が2012年には$1/Wpを切り,最近の世界の市場価格はおよそ$0.3/Wp程度にまで下落している3)。これは20%効率のモジュールが6000円/m 2で調達できるレベルである。まさに“食パン並(10cm角60円)”に安価な時代に入っている。また,UAE・アブダビで建設予定のギガソーラーの入札結果(2017.5契約。2019春に稼働開始)は衝撃的であった。その膨大な規模だけでなく,入札価格は2.42米セント/kWhと破格(日本のH29年度固定価格買取制度(FIT)は21円/kWh(大規模),H22年度の石炭火力原単価は9.5円/kWhなのでどれほど安価なのか想像して欲しい)である。6グループで競争した入札の結果,中国ジンコソーラーグループと丸紅グループがアブダビ水電力会社と25年間の入札・売電契約を締結した。敷地面積7.8km 2,2019年の春に運転開始した。原発約1基分の設備容量(総発電量としては1/5)の巨大な設備をわずか2年で稼働させるスピードにも驚かされる。どの入札電力価格もある程度近接して3円/kWh以下である。総事業費8億7千万ドルの大半は大手銀行団が出資と融資を行い,コスト試算の上で内部収益率はいずれも7%以上の黒字を確保しており,赤字入札では無く,事業単体で儲ける構造になっている。さらに2017年10月のサウジアラビアでの入札では,一番安いアブダビの企業の入札価格は約1.76米セント/kWhという驚異的な提示があった。結果的な契約は2位のサウジアラビア企業と締結され2.342米セント/kWhになったが,これも最安値更新である。小さな規模の案件では2米セント/kWh以下の入札決定も出てきている。安価になる理由としては,高日射量や低人件費,太陽電池メーカーの直接資本参加,土地や電線の政府側準備,税制優遇,水電力会社契約の政府保証など,一部は独特の要因もあるが,環境アピールのための一過性の特殊ケースと見るのは早計である。アラブ諸国では脱石油依存の旗印のもと,再生可能エネルギーの大規模導入の機運が高まっている。UAEでは再エネ割合を2020年までに7%(2050年に44%)に,サウジアラビアの長期国家戦略では,2030年までに再エネ割合を30%にする目標を掲げている。この戦略には,石油の国内消費の節約やCO 2排出削減,自国での太陽光発電システムの技術開発強化など様々なメリットがある。環境アピール規模を遙かに超えて巨大な実体経済に組み込まれている。一見バラ色の未来に見えるが,注意点がある。アラブ諸国の電気料金はタダ同然に安いので,現状の入札価格との差額は電力公社(政府)が補填していることになる点で原資は無限では無い。一方で-24-鉱山第782号2020年1月