ブックタイトル鉱山2020年1月号

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概要

鉱山2020年1月号

新材料部会講演人工光合成からPower-to-X’の実現へ-酸化物光触媒および光電極を用いた水素と有用化学品製造-国立研究開発法人産業技術総合研究所佐山和弘1.はじめに2019年は6月のG20大阪サミットに合わせて地球温暖化対策の議論が活発化した年である。パリ協定が発効し,批准国である日本は,2050年以降「CO 2排出実質ゼロ」を念頭にした長期低排出発展戦略をサミットの直前にまとめて閣議決定した1)。その議論に合わせて様々な戦略や計画,ロードマップを準備してきた。第五次エネルギー基本計画(2018年7月に閣議決定)や水素基本戦略(2017.12)と基本的な整合性をとっている。最終的には,エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化評価検討会報告書(2019.6.10)として詳細なCO 2の長期低排出発展戦略が公開されている2)。京都議定書と異なり,パリ協定では各国ごとのCO 2排出削減義務は直接には課されていないが,その現実的な発展戦略自体の策定と実施自体も決して容易ではない。現状の各国の削減目標を世界で積み上げても地球温暖化を1.5~2℃以内に抑えるには不十分であり,前倒しの戦略実施や改定,および更なるイノベーションの積み上げが求められている。社会・経済レベルを維持拡大しながら,著しいCO 2削減を目指すための画期的な技術を開発するには,省エネ以外の手法は非常に限定される。上記の実用化評価検討会報告書の内容を見ると,多くの技術に関して横並びで長所短所を比較するだけで,特別な技術が新たに示されているわけではない。原子力発電やCO 2貯留(CCS),ダイレクトエアーキャプチャー(DAC)なども例示されているが,これらの先行きは不透明な状況である。CCSは地球温暖化対策の切り札と言われるが,それ自体はエネルギーを消費するだけで,直接的な利益を生み出さないので,民間主導には限界がある。いずれにしても,化石資源の地中から掘り出して使用する絶対量を削減することが第一であり,再生可能エネルギーの大量導入のための革新技術を開発することが最重要課題であることはコンセンサスが得られている。再生可能エネルギーの中で最も膨大なエネルギーが太陽光である。太陽エネルギーには,膨大なエネルギー規模,クリーン,安全,無尽蔵,地球上広く分布などの多くの長所があるが,一方で,エネルギー密度が低くて希薄,天候に左右されやすく不安定という2つの致命的な欠点があるためにその有効利用技術は非常に限定的である。大括りでは太陽光発電,太陽熱利用,バイオマスエネルギーの3つしかない。太陽エネルギー利用の更なる拡大は非常に重要であるが,それらに続く数少ない選択肢として人工光合成技術がある。太陽電池なみに高効率でかつ植物栽培なみに簡便で長寿命,どんな土地でも使える革新的な,太陽エネルギー変換・蓄積する人工光合成システムの実現はまさに人類にとって夢の技術となる。前述の実用化評価検討会報告書において,人工光合成・光触媒が革新的な水素製造技術として記載されたことは前進である。さらに,この報告書の強調点として,核技術の経済性合理性のコスト試算やCO 2排出等のライフサイクルアセスメント(LCA)を実施が強く求められている点は非常に良い。このような国の計画や戦略に人工光合成が掲載され続けるには,その経済合理性を機会あるごとに何度鉱山第782号2020年1月-23-