ブックタイトル鉱山2019年10月号
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鉱山2019年10月号
電池を作製するには電池の電圧を1.5 V以下にする必要がある。なぜならば,Grignard試薬は酸化耐性が低く2.0 V以上の作動電圧を有する正極を使用して電池を作製することができない。電池のエネルギー密度の向上には電圧が3.0 V以上であることが必要である。そのため,電解液の開発が最大の課題となっている。計算機科学と有機合成化学と電池技術を組み合わせながら,新規電解質開発を実施し,Mg[B(HFIP) 4 ] 2を支持塩に使用することでMgの溶解・析出が可逆に生じ,3.0 Vの電池の作製が可能となった。Mg電池の開発には正極の研究も重要で,Mgを含む遷移金属酸化物を中心に検討を行ってきた。その結果,スピネル構造を有する正極活物質に加えて,層状構造を有するLi 0.1 Mn 0.54 Ni 0.13 Co 0.13 O 2-δも優れた特性を示すことを明らかにしている[5]。また,材料のナノ・マイクロ構造の正業に関しても積極的に行ってきた。粒子のナノ化や多孔質化がMgの挿入・脱離の速度を改善する上で非常に重要であることを明らかにしてきた[6]。また,実際にナノ粒子や多孔質粒子を合成しMg電池に応用しその有用性を明らかにしている。現時点でラミネート型のMg二次電池の作製と評価に着手できる状況になっている。5-6 Li金属負極Li金属負極の最大の問題点は,充放電の可逆性と充放電中の形態変化にある。デンドライト状のLi金属の析出がこれらの特性に大きく影響する。デンドライト成長の抑制には,人工的なSEI皮膜を形成することが提案されてきた。また,電解液に関する多くの研究がなされてきた。Li硫黄電池やLi空気電池を考慮し,上述したようにエーテル系溶媒を使用した溶媒和イオン液体やLiBrとLiNO 3を含む電解液について検討し,これらの電解液中においてLi金属の溶解・析出の可逆性が改善されることを明らかにした[3]。また,これらの電解液中でのLi金属負極の基礎的な挙動に関しても検討を行ってきた。この場合にも表面に生成する皮膜が重要であることが分かってきた。Li金属負極を使用する上で重要な電解液技術として濃厚電解液の使用が挙げられる。電解液のコストや粘度の問題で簡単には実用電池で使用できないと思われているが,この電解液を使用してより大きなエネルギー密度が得られるならばその限りではない。濃厚電解液としてLiFSIをDMCに溶解した電解液が最初に報告され,それ以降世界中で研究が行われている[7]。この電解液ではフリーな溶媒が存在せず,その結果通常の電解液とは異なる物理化学的な特性を有する電解液となっている。Li金属の充放電サイクル特性も大きく改善される。図9にリチウム金属負極の溶解析出サイクルの結果を示す。1000サイクル以上の溶解析出サイクルを行えることが分かる。この電解液をベースに濃厚電解液を使用し,さらに新規セパレーターである3DOMセパレーターを使用することで電池の試作が行われている。NMC正極を用いて非常に薄いLi金属を用い,充電から開始するタイプの電池を試作している。また,マンガン系酸化物を用いて放電から開始するタイプの電池の試作も行っている。既に,300サイクル程度が可能な二次電池の試作に成功している。濃厚電解液系においてLi金属の表面分析を行った結果,通常の電解液とは異なるSEIが生成していることが分かった。濃厚図9濃厚電解液中におけるリチウム金属負極の溶解析出サイクル挙動鉱山第779号2019年10月-7-