ブックタイトル鉱山2019年8・9月号

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概要

鉱山2019年8・9月号

エネルギー・工務1.電力問題への対応東日本大震災による原子力発電所事故を契機に,電気料金の値上げや需給逼迫の問題が浮き彫りになり,従来の地域独占による電力需給システムの限界が明らかになった。国は,電力市場を自由化するとともに,広域で電力を融通する仕組みを強化し,非常時の電力の安定供給を確保するべく「電力システム改革」を実行してきた。そして,2020年の発送電分離に向けて本格的に電力システム改革が進められようとしている。そのような電力事情の中,中国の景気減速や非鉄金属価格の大幅な下落から非鉄金属製錬業界(以下,当業界)の事業環境は,低迷を続けており,経営環境は,厳しさを増している。電気料金はいまだ震災前の水準に戻っておらず,このままでは製錬所の競争力が喪失し,国内製錬所が危機的状態に陥ることも懸念されることから,「電力問題」への対応は,当業界にとって最重要課題のひとつである。日本鉱業協会は,「低廉で安定的な電力の確保」を「鉱業政策の確立に関する要望」として掲げ,会員企業と共に電力問題に取り組んでいる。1.1国内のエネルギー政策2018年7月に「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定された。エネルギー基本計画は,2002年6月に制定されたエネルギー政策基本法に基づき,2003年10月から策定されている。その内容は「3E+S」の「安全性(Safety)」を大前提とした,「エネルギーの安定供給(EnergySecurity)」「経済効率性の向上(EconomicEfficiency」による低コストでのエネルギー供給,「環境への適合(Environment)」を同時達成するというものである。およそ3~4年ごとに見直され,前回2014年度の第4次見直し以来4年ぶりの改定となる。今回のエネルギー基本計画では,常に踏まえるべき点として「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験,反省を教訓に肝に銘じて取り組むこと」などを原点として検討が進められ,中長期戦略としての2030年,2050年の双方を見据えた方針が示された。2030年に向けた対応としては,現時点で3E+Sを同時に満たす単一エネルギー源は存在しないことを認識し,2015年に策定されたエネルギーミックスを着実に実現していくという,従来方針は維持されている。このための施策としては,徹底した省エネと再生可能エネルギーの最大限導入を推進し,火力発電の高効率化を進めることで,原子力発電依存度を可能な限り低減させるという従来の基本方針を堅持し,再生可能エネルギーの主力電源化に向けた課題の解決などを推進することとなる。一方,2050年に向けては,パリ協定での温室効果ガス80%削減に見られる脱炭素化への流れの加速化を意識すると,2030年と比較しても不確実性の高い状況下での戦略的対応が求められる。我が国のエネルギー政策は,2度のオイルショックからの石油代替政策,京都議定書の発効を契機とした地球温暖化対策,そして東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所事故を受けた原子力依存度の低減など,状況に応じた適時的な対応が図られてきた。現在は,2050年に向けた長期戦略の検討も不可欠の状況である。この不確実な状況を,我が国の持つ革新的な技術開発をさらに推進し,不連続な形で世界に先駆けて成果反映と普及を推進することが重要である。エネルギーは国家,経済,社会の礎であり,エネルギー転換,脱炭素化を巡る国際競争のなかで,環境経営など産業界でも企業の環境ブランド価値の創出など,金融面での投資好循環をも実現する意識が求められている。当業界としても,CSR(Corporate SocialResponsibility:企業の社会的責任)やCSV(Creating Shared Value:共有価値創出),そしてSDGs(Sustainable Development Goals:持-175-鉱山第778号2019年8・9月