ブックタイトル鉱山2019年7月号

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概要

鉱山2019年7月号

のに対し,FeCoVNでは膜厚が20 nm以上においても,結晶構造はbccからbctを経てfccまでほぼ連続的に変化している点である。すなわちFeCoVはたとえバルク状態であっても,N添加量の調節でbcc?bct?fccを自由自在に合成可能である可能性が高い。図6(d)は,VSM及びSQUID測定より算出した磁気異方性定数K uの軸比c /a依存性である。K uは式(7)より算出した。点線はVNを含まないFeCoの第一原理計算の結果である。c /a=1.25付近でK uが極大を示す傾向は,実験も計算も定性的に一致している。実験的なK uの最大値は,x=2.0 at.%においてK u=1.24×10 6J/m 3 (M s=1.60 Wb/m 2 )が得られた。このK u値は十分に大きな値であり,このK u値と式(2)から算出されるH c値は,理論最大(BH)maxを得るためのH cの条件(式(1)を参照)を満たす。以上のことから,FeCoへのVN添加は,将来のtFC磁石の実現に向けたバルク化の重要な材料設計指針になると期待できる。3-3.微細加工による高保磁力化先述のように手法A及び手法Bのいずれにおいても,bct構造のFeCoが形成されさえすれば高い磁気異方性が得られることがわかった。しかしながら擬単結晶の連続膜状態(試料全体が一つの組織である状態または全ての組織が電子的に連続的につながっている状態)での保磁力は極めて低いため,高い保磁力を得るには組織の微細化(組織の空間的あるいは電子的な孤立化)が必須となる。そこで本稿では,2017年に筆者らが報告した[2],微細加工サイズに対する保磁力の系統的な調査結果について解説する。図7は,手法Aで作製したbct FeCo薄膜(t=2 nm)を,図3に示すEBリソグラフィー技術によって微細加工した結果である。加工サイズ(ドット径D)の設計値は30, 50, 100 nmであり,図中には加工後のSEM像とそれらに対応した磁化曲線が示してある。磁化曲線測定時の磁場は,膜面に対して垂直方向(⊥)に印可した。保磁SEM像Norm. kerr signal (a.u.)1.510.50-0.5-1D = 30 nmD = 50 nm-1.5-1.0 -10 -0.5 -5 0 0.5 5 1.0 10Hμ0 (kOe) H (T)D = 100 nm微細加?前(連続膜)図7 MgO sub./Rh/FeCo(t=2 nm)/SiO 2の微細加工後のSEM像とMOKE磁化曲線.全ての磁化曲線の縦軸は最大値で規格化されている力に注目すると,微細加工前の連続膜で最も低く,ドット径Dが小さくなるに従って高い値が得られ,D=30 nmでは保磁力μ0 H c ? 0.4 Tが得られている。ここには示していないが,磁気力顕微鏡(MFM)による残留磁化状態の磁区観察の結果,D ? 50 nmの試料では磁壁が観察されたが,D=30 nmの試料では磁壁が観察されずに単磁区が観察された。ちなみに単磁区が形成しているにもかかわらず,D=30 nmの保磁力は式(2)から算出される保磁力よりも小さくなっているが,これはミリング時のドット側面の結晶ダメージによるものと考えられ,過去に別の材料でしばしば報告されている[24,25]。またここには示していないが,膜厚が厚い試料の微細加工も行った。その場合には,例えばt=20 nm兼D=50 nmにおいて,保磁力μ0 H c ?0.6 Tが得られた。この値は,図7におけるt=2 nm兼D=30 nmの保磁力よりも大きい。言い換えれば,ドット径Dが多少大きくても,膜厚tが大きければ,保磁力は向上することを意味している。これは,式(3)-(5)で算出される反磁場H dの減少に起因して,式(6)で表わされる実験的な保磁力が向上したものと考えられる。すなわち,薄膜の内部にはH cの低いニュークリエーションサイトが点在すると考えられ,⊥鉱山第777号2019年7月-34-