ブックタイトル鉱山2019年7月号

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概要

鉱山2019年7月号

1.41のbct構造が実現できると考える。このようなFeCoエピタキシャル薄膜に関する実験的研究は,近年筆者らの研究グループやドイツの研究グループ等からいくつか報告がなされており,[9,10これまでにFe/Co人工格子薄膜],Rh, Pd, Ir[11-14下地層] [15,16あるいはCuAu下地層]を使用した試料などが作製され,筆者ら[2]やLuoら[12]は上述の第一原理計算の結果と同程度の大きな磁気異方性(10 6 J/m 3オーダー)を報告している。次に手法Bに関しては,FeCoのc軸内に小さな侵入型原子(B, C, N, O等)を入れ込んで,c軸を伸ばしてbct構造を安定化しようとする発想である。この手法は,手法Aのような下地層が不要なため,微粒子やバルク材を合成する際に有利であると考える。例えばFeにCを添加した場合には,古来より高温からの急冷によってマルテンサイト変態を伴いc /a ? 1.06程度のbct構造が得られることが知られている[17]。またFeにNを添加したFe 16 N 2に関する研究も精力的に行われており,c /a ? 1.1程度が報告されている[18]。他にも報告は少数であるが置換型原子であるTi, Mo等をFeCoに添加する研究も行われている[19-21]。しかしながら手法Bに関しては,いずれの研究においてもFeCoのc /aは1.1を超えず,c /a=1.25付近の十分なbct構造は全く報告されていなかった。このような中で後述のように,筆者らの研究グループでは,FeCoへのVとNの同時添加によってc /aが1.0から1.4まで連続的に変化することを明らかにし,2017年に特許出願を行い[22],2019年に論文で報告した[1]。すなわちVとNの添加量を調節すれば,bccからbctを経てfccまで,任意の軸比のFeCoが作製できる。ただし現時点でこの結果は薄膜状態でのみ実証されており,将来的にバルク磁石(tFC磁石)としてモーター等に応用するには,より厚い膜厚,ひいては微粒子やバルク状態でbct構造を安定化し,かつ高保磁力を得る必要がある。本稿では,筆者らの研究グループでこれまでに報告してきた手法Aと手法BによるFeCoのbct化の試みと,高保磁力を得るための微細加工の試みについて,主要な実験結果を挙げて解説する。2.実験方法成膜には全て,超高真空多元マグネトロンスパッタリング装置(到達真空度~10-7 Pa)を用いた。基板にはMgO(100)単結晶,下地を使用する場合には全てRhを用いた。RhとFeCoとの結晶方位の関係は,結晶構造解析の結果から図2のように膜面内で45°回転していることがわかっており,この場合のRhとFeCoとの格子不整合は(a FeCo-a Rh /√2 )/a FeCo ? 5%と算出され,bct構造を得るのに適切であると考えた。成膜条件は,例えばFeCoVNの場合では,MgO(100)単結晶基板上に,Rh下地層(膜厚t=20 nm)とFeCoVN磁性層(t nm)を,それぞれ基板加熱温度が300℃,200℃で成膜し,最上部に酸化防止層のSiO 2 (t=5 nm)を室温で成膜した。FeとCoとVの組成比はスパッタ時の投入電力で調節し,組成分析には電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた。N添加量は,スパッタリング中のプロセスガスであるArとN 2の混合比率で制御し,X線光電子分光法(XPS)で組成分析を行った。例えばN 2の分圧(N 2 /(Ar + N 2 ))を0-50%で変化させた場合には,EPMAとXPSによる組成分析の結果,薄膜中のN組成は0-10at.%で変化することがわかっている。結晶構造の解析にはX線回折装置(XRD,CuKα線)を用い,FeCoa FeCoa Rh / 2a Rhbct FeCo[110] // fcc Rh[100]Rh buffer図2 Rh下地とFeCoとの結晶方位の関係(薄膜を上から見た図)鉱山第777号2019年7月-30-