ブックタイトル鉱山2019年7月号

ページ
37/70

このページは 鉱山2019年7月号 の電子ブックに掲載されている37ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

鉱山2019年7月号

る場合は正,水平方向に生じる場合は負と定義される。1-3.超強力磁石になりうるFeCo[3FeCoは,一般的な磁性の教科書]に出てくるスレーター・ポーリング曲線で周知の通り,全ての遷移金属及びその合金の中で最大の飽和磁化M sを有する。しかし立方晶(より正しくは体心立方晶bcc)であるため一軸磁気異方性はなく,軟磁性の典型材料である。しかし近年,FeCoを正方晶(bct)にすれば大きな一軸磁気異方性が誘起されることが,第一原理計算によって予測された。一般的にbccとbctとfccは,図1に示すBain[4,5の関係]を考えると,共通の基本格子(赤で示された体心セル)の軸比c /aを用いることで,一つの数直線上で理解することができる。すなわちbccはc/a=1.0の場合,fccはc/a=√2 ?1.41の場合,bctはその中間(1.0 < c /a < 1.41)と定義できる。2004年にBurkertらは,仮想原子モデルを用いて第一原理計算を行うことで,軸比c /a ?1.25のbct構造のFe 40 Co 60において,大きな磁気異方性定数K u ? 1×10 7 J/m 3が期待できることを報告した[6]。またKotaらは,コヒーレントポテンシャルモデルを用いて第一原理計算を行うことで,c /a ? 1.25のFe 50 Co 50が不規則状態でK u ? 1.6×10 6 J/m 3,更にB 2規則化すればK u ?6×10 6 J/m 3が期待できることを報告した[7,8]。このような大きなK uは,その高い飽和磁化M sと高いキュリー温度T cとを合わせると,超強力磁石としての潜在力が期待される。以降筆者らは本材料を正方晶(tetragonal)のFeCoということで,tetragonal FeCoの頭文字をとってtFC磁石と呼称する場合がある。1-4.正方晶FeCoの作り方正方晶であるbct構造は,bccとfccの中間の構造であり,通常のFeCo基合金の平衡状態図には出てこない相であるので,実験的にこの構造を実現するには工夫が必要である。FeCoは本来室温付近ではbcc構造をとるが,周期表上ではbcc構造とfcc構造の境界線上にあるため,何らかの手法でbccの格子を[001]方向(c軸方向)に伸ばす,あるいは[100]と[010]方向(a軸方向)に縮めることができれば,軸比c /aは1よりも大きくなってbct構造が得られる可能性がある。実験的にbccの格子を伸縮させる手法としては次の2つが思いつく。・手法A:外力を加えて格子を無理やり変形させる.(下地層とFeCoとのエピタキシャル成長と格子不整合の利用)・手法B:内力で自発的に格子を歪ませる.(FeCoへの第三元素添加によるbct構造の安定化)まず手法Aについて述べる。一般的に薄膜では,適切な下地層と成膜条件とを揃えれば,比較的容易にエピタキシャル成長を起こして本来存在しない結晶構造が実現され,その新材料の物性を把握することができる。図1のBainの関係を考えれば,FeCoよりも格子定数が小さな下地層を使用し,その上にFeCoをエピタキシャル成長させれば,FeCoのa軸が縮むと同時にc軸が伸びることが期待され,結果的に1.0 < c /a