ブックタイトル鉱山2019年7月号

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概要

鉱山2019年7月号

1-2.磁石の各種パラメータ一般的に磁石の特性を評価する際には,縦軸に磁化(M)や磁束密度(B),横軸に磁場(H)や温度(T)をとった磁気ヒステリシス曲線が用いられ,磁石特性の代表的なパラメータである飽和磁化(M s)や保磁力(H c),最大エネルギー積((BH ) max),磁気異方性定数(K u),キュリー温度(T c)等はこれらの測定結果から決定されることが多い[3]。特に磁石の“強さ(性能)”を議論する際によく用いられるのは(BH ) max(磁石が単位体積当たりに発生できるエネルギーの最大値)である。この量はB-H曲線が第2象限でとりうる最大の面積で評価されるが,保磁力が次の条件H c ? ? M ?s/μ(0以降全てMKS-EH系)を満たす場合には,(BH ) maxは式(1)で表わされる。(BH ) max=M 2 s /(4μ0 )(1)式(1)からわかるように,十分に大きな保磁力をもつ磁石の性能はM sのみに依存する。このため高性能な磁石の開発には,保磁力の向上のみならず,M sの向上も非常に重要となる。(後述のように,FeCoは全ての遷移金属合金中で最大のM sを有することが古くから知られているため,究極の磁石になりうる潜在力を有している。しかしながらFeCoは下述の磁気異方性定数K uがほぼゼロであるため,保磁力H cもほぼゼロであり,永久磁石には向かないとされてきた。)保磁力H cは,一般的にはマクロな組織の形状やサイズの影響を強く受けるが,理想的な単磁区状態(一斉磁化回転モデル)では式(2)で表わされる。H c=2K u /M s(2)式(2)からわかるように,H c向上のためにはK uを向上する必要がある。また単磁区状態は,一般的な磁石材では組織サイズがマイクロメートルオーダーかそれ以下で形成されることが多いことから,H c向上のためには組織のマイクロ~ナノオーダーの微細化も必要であることがわかる。微細化した組織を考えると,その形状やサイズに依存した反磁場(H d)が,磁性体内部に発生する。ここで組織の形状を偏平楕円体で近似し,軸を(x, y, z)=(D , D , t ), k=D /t>1とすると,H dは式(3)で表わされる。H d=-N M s /μ0(3)ここで各軸における反磁場係数Nはそれぞれ式(4)と式(5)で表わされる。N D=1/(2(k 2-1))((k 2 arccos(1/k )-1)/√k 2-1)(4)N t=1-2N D(5)式(3)からわかるように,一般的に反磁場H dは磁性体内部で磁性体自身の磁化を弱める方向(マイナス方向)に働き,その大きさはM sに比例する。また式(4)と式(5)からは,H dは楕円体の縦横比k (=D /t )に大きく依存することがわかる。例えば薄板(圧延板やスパッタ薄膜など)の形状では,短軸方向(膜厚方向)の反磁場係数N tがほぼ1となり,長軸方向(水平方向)のN Dがほぼ0となるため,膜厚方向に大きなH dが生じる。すなわち薄板の磁化を膜厚方向に立たせることは難易度が高いことがわかり,もしM sが大きければその傾向は一層強くなることがわかる。さて,実際の組織を考えると,内部には結晶欠陥や不純物等を内包し,一般的にはその近辺の領域(ニュークリエーションサイト)のH cは低下する。反磁場H dは組織内部に一様に印加されるので,H cの低いニュークリエーションサイトはH dの影響を強く受けて組織全体のH cを低下させる。このため実際のH cは,経験的にH dと係数p (? 1)を用いて式(6)で表わされることがある。H c=p (2K u /M s )-H d(6)ここでK uは,例えば薄板の場合には,M-H曲線やトルク曲線から算出される実効的な磁気異方性定数K u(eff)と形状磁気異方性定数M 2 s /(2μ0 )を用いて式(7)で表わされる。K u=K u(eff)+M 2 s /(2μ0 )(7)ここでK u(eff)は,一般的に薄板の膜厚方向に生じ鉱山第777号2019年7月-28-