ブックタイトル鉱山2019年7月号

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概要

鉱山2019年7月号

新材料部会講演超強力磁石になりうる正方晶FeCo~tFC磁石の実現に向けて~秋田大学大学院理工学研究科物質科学専攻長谷川崇永久磁石の性能向上には磁化と保磁力の増大がキーとなる。鉄FeとコバルトCoの合金は非常に大きな磁化を有するが,立方晶がゆえに磁気異方性が極めて小さいせいで保磁力も極めて小さいため,長い間FeCoは永久磁石に不向きとされてきた。しかし最近の筆者らの研究グループ[1]や世界中の複数の研究グループからの報告により,結晶構造を正方晶に変態させることで,大きな磁気異方性が発現することが明らかとなってきた。また筆者らは2017年に微細加工法でFeCoナノドットを作製し,大きな保磁力が得られることを世界で初めて報告した[2]。本稿では,まず序論でこれまでに報告された世界の主要な研究の一部を紹介し,その後筆者らの主要な研究を解説する。なお,tFC磁石とは正方晶FeCo(tetragonal FeCo)の頭文字を取ったもので,筆者が実用化への意気込みと共に名付けた。1.序論1-1.磁石の用途と開発の歴史磁石はモーターから電子部品にまで幅広く用いられている。モーターは例えば発電機や電気自動車(EV)の心臓部に用いられ,磁石を搭載した電子部品は例えば演算子や記録媒体としてPCやスマートフォン等のIT機器に多く用いられている。磁石性能は機器の性能そのものに大きく影響を与えることが多い。例えばモーターの性能は磁石の性能に大きく依存し,磁石の強さが発電効率からEVのパワーや燃費にまで直結する。また記録媒体などの電子部品では,磁石性能が記録密度や情報保持年数に大きく影響する。そのため磁石性能を向上することは,発電効率やIT機器の信頼性向上につながり,ひいては省エネやCO 2削減,IT社会の持続的発展につながる。磁石の歴史を見ると[3],天然の磁鉄鉱などは紀元前から世界各地で利用されてきたが,実用的な磁力を有する近代的な磁石材の開発に関しては日本が世界をリードしてきた。例えば世界初の実用磁石といってもよいKS鋼は,1910年代に本多光太郎氏によって開発された。次いで現代でも安価な磁石として多用されるフェライト磁石は,1930年代に加藤氏と武井氏らによって開発された。その後アメリカ,ドイツ,オランダ等でも強力磁石の開発が進んだが,本稿執筆時点での最強磁石は,鉄とネオジムとホウ素を主成分とする通称ネオジム磁石であり,この磁石は1980年代に佐川氏によって開発された。現在量産されている強力磁石のほとんどはこのネオジム磁石である。他にも用途に応じて,サマリウムとコバルトを主成分とする通称サマリウム磁石や,鉄やコバルトとプラチナやパラジウムを主成分とする貴金属磁石などが量産されている。いずれも磁力は強力であり,様々な機器の性能向上に資しているが,希土類元素(レアアース)や貴金属(レアメタル)が多く含まれているので,元素戦略の観点から,これらの希少元素を含まない新規な強力磁石材の開発が強く望まれている。-27-鉱山第777号2019年7月